「キットカット」流の福祉制度
チョコレートの原料であるカカオは、中米のアステカ王国がルーツ。
スペイン、フランス、オランダ、ポルトガルの植民地支配とともに「スイーツ・ロード」が地球規模で広がっていったという。
もともとは薬用飲料で、砂糖を加えてココアになり、固められてチョコレートになってわずか100年なのだそう。
チョコレートはまた、ベルギーやフランスを中心に工房で職人が手作りするものと、産業革命を進めたイギリスで試行錯誤され、工場で大量生産されるようになった規格品がある。
興味深いのは、有名な「キットカット」を生んだイギリスのロウントリー社の発展史。
敬虔なクエーカー教徒のロウントリー家のミッションは、「ビジネスに励むこと」と「社会のために尽くすこと」。
ココア・ビジネスに乗り出したのは、ビールを常飲していた労働者階級に、手軽で健康的な栄養補給食品を提供することも目的だったという。
奴隷制度を廃止して自由貿易を実現するほか、初めて貧困層の社会調査を実施。
チョコレート生産に本格的に着手してからは、住居対策や老齢年金など工場労働者の福祉制度のほか教育プログラムを開発し、19~20世紀のイギリスの福祉国家形成の過程に大きな影響を与えたという。
第一次世界大戦前後には、経営者と労働者が工場運営や給与体系を協議する評議委員会制度を設け、「産業疲労」の研究によるカウンセリングの導入なども行なわれている。
一定の労働作業にかかる時間を計って標準作業量を決める「科学的管理」がアメリカ式なら、労働者の「自主的管理」による労働意欲の高まり、人間的な成長を求めるのがロウントリー式、ひいてはイギリス式という指摘が面白かった。
(武田尚子著/中公新書/819円)
