上野千鶴子・東大名誉教授が「家族がいようといまいと、『家にいたい』のはお年寄りの悲願」として、「在宅ひとり死」のノウハウから心構えまで、24年間在宅医療に携わってきた小笠原文雄医師に徹底的にインタビューしたQ&A集。
豊富な臨床例をもつ小笠原医師によれば「ほとんどの病気は訪問診療など適切なサービスさえ利用できれば、在宅療養が可能」で、「希望死・満足死・納得死」を成就することができるいう。
末期がんや誤嚥性肺炎でも、痛みのコントロールと暮らしの支援があれば、自宅にいるほうが「安心して自分のペースで暮らし続けられます」。
ただし、ひとり暮らしで「老衰死」するには、反対する家族の説得にかなり時間と労力を費やすし、「強引な延命治療」を避けるには「医療介入をし過ぎないこと」がポイントで、かつ「お別れには家族が立ち会うべき」という呪縛を解かなければならない。
「家で死ぬ」という本人の意思を家族・親族が受け入れることができれば、できるだけ元気なうちに地域の在宅ホスピス緩和ケアチーム、訪問看護ステーションを探し、在宅療養を支えるネットワークを作ることが肝心だ。
また、在宅医療ネットワークのかなめとして、医療・看護・介護・福祉・保健に精通した「トータルヘルスプランナー」が必要だという。医療・介護の多様な専門職、家族・親族との連絡調整など、本人を取り巻くあらゆる人たちをつなぐ役割だ。
経済的な問題については、「医療保険、介護保険をフルに使えば、ほとんどの場合、可能」で、公的支援のほかにどの程度の負担が必要になるかも詳しく紹介。
自宅で最期を迎えることは「本人の満足度が高い」ことが魅力だが、在宅療養ネットワークが地域になければ「運が悪かったと諦めるしかないのかも知れません」というのが現状だ。
「トータルヘルスプランナー」はケアマネジャーの上に位置することになるらしいが、現在、国は個別ケアプランをチェックする地域ケア会議を市区町村に義務化し、そこにもコーディネーターを設置する構想なので、調整役がどんどん増えていく。
なお、「老人ホームをつくるには膨大なインフラコストがかかります。自宅療養ならば本人の家で療養し、そこで亡くなるわけですから、国民の税金は使いません」、「在宅死は社会保障費の抑制にもつながるでしょう」という言及については、さらなる検証を望みたい。
(上野千鶴子・小笠原文雄著/朝日新聞出版/1470円)
