仕事や家族形態が多様になり、
ワーキングプアが出現した21世紀は、
これまでの社会保障制度では対応できないと著者。
いまの社会保障・福祉制度の基本は、
第二次世界大戦後の高度経済成長期に完成したもので、
男性であれば、
①フルタイムで働けば人並みの生活をする収入が得られる
②将来の仕事や家族のあり方がほぼ予測できる
のが前提だった。
経済的セーフティネットは
「生活保護」「最低賃金」「雇用保険」に限られる。
だが、「生活保護」は
働けるのに働く場がない、収入が少ない人を救わない。
「最低賃金」は補助労働に対する給与保障水準なので、
生活することはできない。
「雇用保険」は多くの非正規雇用者は加入対象にならない。
1990年代以降、
「ニューエコノミー」による労働の規制緩和で、
最低賃金レベルの収入しか得られない
フルタイム非正社員や自営業者が増大した。
表面化しなかったのは
低収入の若者たち(ワーキングプア)を
多くの親たちが「社会保障していた」からだ。
その構造は大学院卒など高学歴の若者たちにも拡大している。
2010年現在、35~44歳までの
親と同居する未婚者は全国に295万人もいる。
「壮年の子」が無職あるいは低収入でも
親が要介護状態になっても生きている限り、
親の年金に依存して暮らす
「年金パラサイト・シングル」でいることができる。
だが、親の世代も「高齢者の所得格差」は大きい。
基礎年金は「家計補助、もしくは事実上の小遣い」
にすぎない。
そのうえ退職した団塊世代が
独身の子どもと同居する確率はほぼ5割で、
引退後に子どもを再扶養するのは1~2割になる。
だが、親はいずれ死ぬ。
親の死を隠し、親の年金をもらい続ける事件が
あいついで摘発されるのは、
親との同居によって潜在していた貧困問題が
表面化しただけのこと。
現行制度のほころびはもう明らかなのだから、
「現状変化と制度修正のいたちごっこ」をやめ、
社会保障・福祉制度の抜本的な見直しを考えようと
呼びかける。
(山田昌弘著/文春文庫/560円)
