「家事労働」とは、夫が主たる稼ぎ手であることか「普通」の社会において、妻が担う育児や介護、家事など「無償のケア労働」のこと。
そして、女性の賃労働は家庭の仕事の片手間に行う「お遊び」とみなされると著者はいう。
国際通貨基金(IMF)は「日本経済が高齢化に対応するためには女性の就業拡大が不可欠」と提言している。
だが、日本で働く女性の55%は非正社員だ。
非正社員は低賃金や雇用の不安定さだけでなく、育児休業などの社会保障制度の対象外に置かれがち。
女性が働ける社会へに転換するには、家事労働を支える社会的な仕組みが不可欠で、
①企業は、労働時間の短縮のより家事、育児、介護、地域活動などの無償労働を男女で引き受けられる余地を増やす、
②行政は、無償労働の一部を介護・保育施設などの社会サービスが分担し、家庭の負担を軽減する、
③男性は、家庭内の無償労働を分担する、
という3条件が最低限、必要だ。
しかし、労働基準法では家事一般に従事する「家事使用人」は対象外で、厚生労働省の定義ではニート(若年無業者)に「家事手伝い」は入らない。
おまけに、「子どもは親がみるべきだ」と主張する保守系団体「親学推進協会」(安倍首相が会長を務めていたこともある)があり、自民党憲法改正草案では、家庭内の両性の平等を謳った二四条に「家族は、互いに助け合わなければならない」を付け加え、公的サービスの利用より、家族負担への圧力が高まっている。
第5章「ブラック化するケア労働」では、家事や子育て、介護などの「再生産労働」の多くがサービス産業化されているが、それらは「生産労働」に奉仕する従属労働として「女ならだれにでもできるタダの仕事」とみなされ、「低賃金ケア労働」を生み出している、と指摘する。
介護保険の場合も、「家庭内の介護への評価が労働実態とかけ離れた低さ」であるため、介護報酬の設計は「無償の家族介護の延長のような低報酬を基盤にしていた」。
「そこには、『嫁労働』を改善し、女性に経済的自立ができる職業を保障していくという視点はほとんど見えなかった」。
このため、「教育訓練にも十分な資金がかけられず、働き手は仕事への誇りが持てずに投げやりになり、そのため利用者が仕事の質に期待を抱かなくなり、その結果、さらに介護労働に公的資金をかける必要がないという空気が促される」という悪循環に陥っている。
介護労働ばかりでなく、給食調理員や保育士、窓口事務、図書館司書など「家事的公務」は、民間委託や非正規化が進み、低賃金化、不安定化している。
だが、産業構造の激変の中で、「私たちは家庭からあふれ出た無償労働を公正に無理なく再分配する政策づくりを迫られている」。
オランダは、パート労働者の均等待遇と働き手が選べる労働時間を実現したが、一応の社会福祉の基盤、発言力のある労働組合、このふたつが不可欠な存在だったという。
日本でも、まず「外で働くか家庭内だけで働くかを問わず、家事労働を担う人々を横の関係で結ぶネットワーク」を強め、仕事の後で家庭生活を送れるだけの1日当たりの労働時間規制の立て直し、保育や介護などの公的福祉サービスの整備、女性や家事労働者の意見も反映できる労働組合づくりなどによって、「家事を担いながらでも安心して働ける仕組み」を作ることを提案する。
(竹信三恵子著/岩波新書/864円)
