地域包括支援センターは期待はずれ
84歳の母親をしばらくぶりに訪ねたら、実家はゴミ屋敷と化していた。
これは生理的な老化の進行か、認知症の症状なのか…。
悩んだ著者は半年後、全国紙に相談メールを投稿した。
なかなか珍しい道の拓きかただ。
1か月ほどで担当記者からメールが来て、「人口3万人以上の自治体に地域包括支援センターという相談所が設置されていて、そこなら母親本人を連れていかなくても、家族だけでも相談にのってもらえるというアドバイスをもらった」。
だが、地域包括支援センターは「言葉遣いも丁寧で受け答えも親切」だったが、「認定を受けてから相談にきてほしい」という期待外れの回答だった。
介護認定の申請には主治医の意見書が必要だが、母親は診察を嫌がる。
自治体の介護保険課は「家族で説得していただないことには」。
「軽度認知障害」の母親とのつきあい方に悩み迷っていたときに、東日本大震災が起こった。
実家は被災し、「カラ元気を装って」いる母親を著者夫婦のマンションに避難させた。
だが、夫婦は共働き。
有料老人ホームに入居している妻の父親は入院が必要になった。
それに、今はおとなしい母親がいつ妻とぶつかるか…。
著者は義父の有料老人ホームへの入居を考える。
体験入居にこぎつけ、ホームのケアマネジャーに紹介された認知症外来を受診。
アルツハイマー型認知症の初期と診断が出た。
体験入居で母親は元気を取り戻し、経済的負担はのしかかるが入居契約を決断する。
介護の方法はさまざまだが、著者はゴミ屋敷発見から施設入居まで3年の歳月を要した。
得た教訓は、「介護の必要性を感じたときには迷うことなく速やかに行動して、先延ばししないこと」だ。
しかし、同時に著者には「自分たちの老後の準備を怠ってきた親たちに責任はないというのだろうか」と違和感が拭えない。
そして、「私たち夫婦もまた、そう遠くない将来に親たちと同じ介護老人となり、終末期を迎えることになるだろう」。
そのとき、「老後と始末」にどう向き合ったらいいのだろうか。
息子介護の率直な心情を知る一冊。
(井上雅義著/小学館/1512円)
