『ミレニアムと私』
スウェーデン発の『ミレニアム』3部作は、著者のスティーグ・ラーソンが第1部の出版前に急逝したというのも驚きだった。
第1部『ドラゴン・タトゥーの女』はスウェーデンとアメリカで映画化されたが、ニールス・アルデン・オプレヴ監督のスウェーデン版を観て、ノオミ・ラパスが演じるリスベット・サランデルが勇ましく、原作を読んだ。
ミステリとして大いに楽しめたが、福祉国家として名高いスウェーデンにおけるテロリストやハッカー、DV、児童買春など、ダークサイドが描かれているのが興味深かった。
本書は18歳から32年間、ラーソンのパートナーだったエヴァ・ガブリエルソンの回想録だ。
ラーソン亡き後、ガブリエルソンと親族の間で遺産トラブルがあるとは聞いていた。
驚きだったのは、先進的な国と思っていたスウェーデンにおいて、婚姻届を出していないパートナーには相続権がないことだ。
2004年、ラーソンの死後、疎遠だった父親と弟が財産を独占し、ガブリエルソンは共同名義だったマンションからも追い出されそうになったという。
彼女は建築家だが、ラーソンとともに青春時代から反人種差別、反極右の政治活動をする同志でもあった。
『ミレニアム』3部作は世論を喚起するためにふたりで知恵を出し合った作品でもあった。
しかし、極右に狙われる危険を避けるため、一緒に暮らしていることは極力伏せ、多忙のなかで婚姻届を出していなかったという。
ラーソンの死後まもなく、遺族は国外の出版社に版権を売り、映画化権も売った。ガブリエルソンは、契約から排除され、収益もまったく関係がなかった。
彼女が願ったのは、「著作者人格権」を認めてもらい、中断せざるを得なかった第4部をみずから完成させることだった。
しかし、遺族は拒否したうえ、マンションの権利と引き換えに、第4部のために苦労して集めた資料などを要求するだけだった。
ガブリエルソンは「正式に結婚していない男女に関する法律を修正してほしい」と痛切に思った。
事態は好転しなかったが、ドキュメンタリー番組『ミレニアムがもたらした莫大な遺産』の放映により、彼女を支援しようとする人たちが現われた。
そして、「同棲が珍しくないスウェーデンでは、自分と同じような思いをしているとがおおぜいいるに違いない」と考えた彼女は2010年、共著で『結婚を選ばなかった者たち』を出版した。
同じような不幸に苦しむ人たちは大勢いた。
だが、統計上は、子どもがいない事実婚の人は、すべて独身者に分類され、「少数派」になってしまうという指摘に考えさせられた。
結局、『ミレニアム』第4部は、ダヴィド・ラーゲルクランツの『蜘蛛の巣を払う女』が出版された。
手がたい構成でそこそこ楽しめたが、ガブリエルソンの願いは結局、かなわかなったのだろうか?
(エヴァ・ガブリエルソン、マリー=フランソワーズ・コロンバニ著/岩澤雅利訳/早川書房/1600円+税)
