BF134 『銀の猫』

BF134 『銀の猫』
舞台は江戸時代の日本橋、「鳩屋」という口入屋。
口入屋は、現代の家政婦紹介所、あるいは人材派遣会社といったところか。
主人公のお咲は「鳩屋」から派遣される「介抱人」。
介抱人とは「身内に代わって、年寄りの介抱を助ける奉公人」のこと。
民間のホームヘルパー、介護保険がはじまる前は家政婦と呼ばれた仕事に該当する。
“お江戸”は「長寿の町」で、おまけに「親の介抱は一家の主がするものと相場が決まって」いたので、男性が主たる介護者というのが建前。
とはいえ、仕事が忙しかったり、介護したくなかったり。
で、経済的に余裕がある家が、「鳩屋」に奉公人を依頼する。
お咲が派遣され、「介抱」する相手は、大店の半身マヒのご隠居さん、将軍側近だった認知症の元エリート武士、アル中の元芸者など実に多彩で、遊び人の女隠居の見張り役という仕事もある。
貸本屋のインテリ旦那は、奉公人を雇えない介護者のためにガイドブック『介抱指南』を出版したいと持ちかけて来る。
お咲自身も離婚した夫への借金返済や、好き勝手のし放題で「毒親」ともいえる母親とのいざこざなどを抱えている。
隣家には、貧乏で律儀な息子の介護生活もあり、介護をめぐる多種多様な人が抱く心情が江戸時代を借りて、たんねんに描かれる。
お咲のようにトラブルや不幸が続くなかでも、明るく前に進もうとするホームヘルパーさん、現代にもたくさんいるよなと思う。
とはいえ、令和時代のホームヘルパーは後継者が育つことなく高齢化しつつあり、制度発足時に予言された「消滅の危機」が刻々と近づいている。
(朝井まかて著/文春文庫/720円+税)

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