BF140 『ルポ 老人受刑者』
最近、高齢受刑者のために刑務所が介護体制を整えている、あるいは介護への対応に刑務所が悲鳴を上げているという新聞記事を読むことがある。
著者が高齢受刑者に関心を持ったのは1986年、呉刑務支所を訪ねたときという。
51人の受刑者の平均年齢は68歳、最高齢は83歳だった。
高齢受刑者は出所しても、数ヵ月で戻ってきてしまう。無銭飲食(詐欺)や万引き(窃盗)などの常習累犯者が多く、社会復帰できず、刑務所は「衣食住の心配がない」「最後はここしかない」と真剣に語ったそうだ。
それから30年以上が過ぎ、2020年、総人口の28%を高齢者が占める時代になった。
刑務所に収容されている高齢者は、2007年には全受刑者の2.7%だったが、10年後の2017年には4.8%とほぼ倍増している。特に70歳以上の高齢者が急増し、再入所率(再犯者)が多いという。
2016年、「再犯の防止等に関する法律」(再犯防止推進法)が成立した。だが、著者は「差別されない社会人」に復帰することは困難で、「とくに、高齢受刑者の生活環境は若年者と比べて過酷といえるのではないか」と指摘する。
刑務所への取材、あるいは受刑者へのインタビューには、信頼を獲得しなければならない。
本書では、東京都の東日本成人矯正医療センター、栃木県の黒羽刑務所、福島県の更生保護施設などを訪ね、刑務官や受刑者にたんねんな取材を重ねた成果が報告されている。
将来の道筋を探るため、法務所の元矯正局長へのインタビューや、社会復帰を支援するNPOの活動も紹介されている。
とりわけ、「高齢犯罪者の権利保障と社会復帰」を研究する安田恵美・國學院大学准教授の「刑務所拘禁の弊害」には考えさせられる。
安田・准教授は、生き延びるために犯罪を犯した高齢者が、「刑務所拘禁」で一時的に衣食住を確保できたとしても、刑期を終えて社会復帰した瞬間から「社会的排除状態」に引き戻される、むしろ、受刑者であることにより「社会的排除」が悪化するというのだ。
また、「刑務所拘禁中に住民票が職権削除されてしまうことがある」。
「住所不定無職」のまま出所するのは、生活保護をはじめ社会保障サービスにすぐつなぐことができない。
支援者がいたとしても、出所者の多くは社会的排除の経験者で、「人を信頼するという感情はたやすいことではない」。
本書で初めて知ったが、受刑者は心身の状況により「収容分類級」があり、「身体に欠陥がある者」をP、「精神上、欠陥がある者」をMに分類するそうだ。「養護の必要がある」場合はPS級という。
日本の受刑者は減少傾向にあるが、高齢受刑者は増え続けている。
「刑務所には自由も快適さもないが、飢えも身分差別もない」という著者の指摘は、私たちが暮らす社会の貧困と差別を照らし出す。
(齋藤充功著/中央公論新社/720円+税)
