BF142 『ルポ 中年童貞』
いつもなら手に取らないタイトルの本だが、『崩壊する介護現場』(ベスト新書)の著者なので、読んでみた。
著者が「中年童貞の深刻さ」に気づいたのは、出版不況のなか、ライター稼業から介護事業へ参入したからだという。
人材不足のなか、数年間、30~50代の男性を採用したが、「決定的に物事の考え方や行動がズレている」ため、繰り返しトラブルを起こされたそうだ。
経営者である著者の頭痛の種だった彼らが、総じて「30歳を超えて性交未経験の中年男性」だったことが、執筆動機という。
当事者探しに苦労したそうだが、インタビューに応じたひとりは、「中年童貞」に多い属性は「介護職員、農業関係者、ネット右翼の3種類」と説明してくれたという。
「ネット右翼」というのは属性として並べる分類だろうかとは思うが、「介護職員」という指摘は気になるし、「介護ほど深刻に壊れている世界は見たことがない」と書かれれば、そんなにひどいかと思ってしまう。
著者のフィールドは首都圏だが、2008年、リーマンショック以降、失業者対策として政府が打ち出した「緊急雇用創出事業」(その後、「重点分野雇用創造事業)により、介護現場に失業者が送り込まれ、「全国的にムチャクチャなことになっている」という。
また、「従業員を洗脳する経営理念の先駆者」による介護事業の運営もあり、「介護甲子園」というイベントを仕掛けてるのは「宗教的な団体」だともいう。
介護現場で働く男性労働者が読めば、憤然とするのではないかと思うが、実際、介護労働者の約4割は1年未満、約6割が3年未満で離職し、「人材不足」は慢性化している。
数年でほとんどが入れ替わるのを繰り返していれば、経験豊かな専門職は育たない。
とはいえ、介護労働者には筆者が指摘する中年男性は少なく、中高年女性が約7割と主力だ。
初任給は他産業より低く、給与も全産業平均より約9万円低いと報告されている。(労働政策審議会職業安定分科会雇用対策基本問題部会第101回〈2021.02.26〉資料より)。
著者は「中年童貞の可視化」を続けるとしているが、それより、「介護現場の末端」には「社会から弾かれた人材」を操る「薄汚いベンチャー企業が群れている」という指摘について、さらなる追求を求めたいと思うのは高望だろうか。
(中村淳彦著/幻冬舎新書/800円+税)
