『厚生労働省 劣化する巨大官庁』
介護保険の見直しを議論する社会保障審議会の傍聴を2003年から続けているが、事務方の老健局のスタッフが何人いるのか、いまだに知らない。
コロナ前はライブ傍聴だったので、老健局長と審議官、課長が並ぶ席の背後に、20~30人のスタッフが控えているのを眺めてはいた。
委員の質問に課長がつまると、すかさず走り寄り、耳打ちする。
制度がスタートした2000年代はマルチ対応可能な課長もいたが、2010年代になると、複雑さを積み重ねる制度に(まあ、自分たちで複雑にしてるんですけどね)、分業化が進んでいることを感じる。
著者は、厚生労働省担当の新聞記者。
「国家予算の3分の1を使い3万人超の職員が働く巨大官庁」である厚生労働省の歴史からはじめ、組織構成、国家公務員の労働条件、技官や労働基準監督官、麻薬取締官といった専門職など、知っているようで実は知らないことを、わかりやすく説明してくれる。
なかでも、第3章「政策はどう決まる」では、「利害関係者が集まる審議会」として、年金部会、中医協、労働条件分科会、生活保護基準部会、財務省に国会審議などを解説してくれる。
介護保険制度はめったにない「全く新しい制度を最初からつくった代表例」なのだという。
法令というのは、憲法の次に法律、その下に「政令、省令・施行規則があり、さらにその下に通知、事務連絡がある」、「法的拘束力はないが、通知は実質的には法令に近い扱われ方をする」という序列の説明は、とてもありがたかった。
厚生労働省が担うのは、介護保険を含む社会保障分野だ。
前身の厚生省ができたのは1938年。
その前は「衛生行政」を担当する内務省(1873年創設)。
当時はコレラや結核への対策が中心で、感染症との縁は長いという。
厚生省の誕生は、国民の体力低下と結核感染の拡大による若年層の死亡率の高さが背景にある。
いまと違って、国民の健康を守るのではなく、「いい兵隊をとるためにも体格のいい国民を作らなければならぬ」という「戦争遂行」が目的だったそうだ。
「史上最長政権と厚労省」、「なくならない不祥事」など、教えられることばかり。
ちなみに、1922年に健康保険法が成立し、2022年で100年たっていることを初めて知った。
厚生労働省の「厚生」は中国の古典から引用されたもので、「民の生を厚くする、すなわち国民の生活を豊かにする」という意味だという。
名を体現する省庁であってほしいものです。
(鈴木穣著/新潮新書/820円+税)
