BF160 『勁草』
新型コロナウイルス感染症の流行とともに、メールマガジンに掲載するため、介護事業所のクラスター報道を地方紙でせっせとネットでチェックしている。
2022年11月段階でも、クラスター報道は一向に減らないが、作業中で気づいたのが、オレオレ詐欺で知られる特殊詐欺事件の多さだ。
介護保険料が戻るという還付金詐欺がいっとき増え、民間介護施設の入居優先枠といったケースもある。
被害額も次第に大きくなっている気がする。
そんなとき、『後妻業』のあと、しばらく読んでいなかった著者の特殊詐欺をテーマとした本書を読んだ。2015年の作品だが、特殊詐欺が組織犯罪で、ものすごく細かい役割分担があることを教えられる。
特殊詐欺用語というのだろうか、まず、株取引経験者や大手企業退職者などの名簿を売る「名簿屋」がいる。
名簿データを元に、電話で被害者をだます「掛け子」。被害者から直接、お金を受け取る「受け子」と、金融機関にの振り込ませた場合は現金を引き出す「出し子」。「掛け子」や「受け子」をスカウトをするのは「リクルーター」で、管理するのは「番頭」、現金を持ち逃げしないよう「見張り」もいる。
詐欺に使う携帯電話や架空銀行口座、印鑑などを調達する「道具屋」など、実に恐れ入る役割分担だ。
トラブル解決には、組織暴力団の構成員が登場する。
本作の舞台は大阪。
特殊詐欺グループを追う刑事ふたりと、「名簿屋」の下で働く(というのだろうか?)若者ふたり、善悪コンピが交差する物語だ。
若者たちを雇う「名簿屋」は、NPO法人(!!)を運営し、アパートに生活保護受給者を住まわせ、保護費支給日に家賃や借金回収の名目で多くを取り上げ、こづかい稼ぎを餌に「出し子」に使うという悪人だ。
刑事コンビが末端の若者たちの履歴を調べ、特殊詐欺グループの中核に近づいていく手法が興味深い。
また、若者たちが名簿を元に、ターゲットの資産や家族構成などを実地調査(!)するため、”介護施設入所コンサルタント”を称し、富裕な介護家庭に入り込むセールストークに驚いた。
とはいえ、若者コンピの一方が借金返済に行き詰まり、「名簿屋」を殺してしまったところから、サスペンスが加速する。
じりじりと若者たちに近づく刑事たちの「日本は世界でいちばんの振り込め詐欺先進国ですか」という会話がリアル。
なお、タイトルの「勁草」ってどういう意味だろうと思いながら読み終わったら、表紙カバーの裏に説明があった。
(黒川博行著/徳間書店/1800円+税)
