BF167 『義父母の介護』

BF167 『義父母の介護』
最初にタイトルをみたとき「いまごろ、お嫁さん介護?」と思った。
介護保険制度がはじまって以来、三世代同居介護、すなわち同居するお嫁さん介護は激減した。
でも、よく考えてみたら、ひとり暮らしの高齢者でも、家族の通い介護の有無についての調査は聞いたことがない。
琵琶湖のほとりで暮らす著者は翻訳家、エッセイストで、夫がいて、高校生の双子の息子を育てつつ、という多忙な日常を送っていた。そこに加わったのが、車で約30分のところに暮らす「義理の両親の介護」だった。
義父母とは結婚前から折り合いがいいとはいえなかったが、歳月とともに穏やかなものになってきていたのだという。
だが、2016年あたりから、茶道教室を営み、聡明にして読書家、常に身だしなみに気を使う義母の言動があやしくなりはじめる。
ときにユーモラスで詳細な記述は、著者が「日々の暮らしで起きる様々なできごとを、その都度文章で残している」ことによる。
2019年、義父は脳梗塞で入院し、義母は毎日通ったが、ちぐはぐな行動が顕著になってくる。
ついに初期の認知症と診断され(後日、レビー小体型認知症と判明する)、要介護認定を受け、ケアマネジャーの助言を受けながら、通い介護がスタートする。
著者はケアマネジャーのアドバイスを受けつつ、「介護はすべてプロにおまかせ」と完璧なプランニングをしたつもりだった。
だが、義母が義父の浮気を疑いはじめ、「義理の両親の介護」に突入せざるを得なくなる。
動機はふたつあるという。ひとつは義母の認知症を「すべて目撃したいという好奇心」。「文章を書いている人間の性(さが)のようなものだろう」と自己分析している。
もうひとつは「認知症になった義母に対する義父の苛立ち」への怒りだという。完璧な主婦だった義母の献身が「家事ができなくなったという理由で一気に清算されるなんてフェアじゃない」とシスターフッドが起動した。「主婦失格の烙印を押されてしまった義母を後方支援できるのは、私しかいないだろう」。
義父の再入院、コロナワクチン接種騒動、義母の「物取られ妄想」に「嫉妬妄想」、夫婦そろってデイサービスを利用する不具合、逃げ腰の夫の教育—-「夫、ついに雄叫びを上げる」あたりから成果があがりはじめる—-など、日々のイベントは尽きることがない。
義父が、義母が喜んでデイサービスに通うのを嫌がり、男性の訪問看護師に嫉妬心からいちゃもんをつけるといったレポートは、長き夫婦関係の複雑な側面を教えてくれる。
2024年現在、義父は要支援1、義母は要介護3という。要介護夫婦は何度も悪質商法の餌食になり、「善良そうな人の邪悪な計画」にもひっかかる。「支給限度額ぎりぎりまで介護サービスを利用したとしても、子世代にとって仕事は山積みなのだ」。
ときに「もう、無理かもしれない」、「私って意地悪かな」と弱気になりつつ、「家族のために自分を犠牲にしてあたりまえ。そんなあたりまえを潰していきたい」と復活する著者のストレートな語り口が魅力的な一冊。
(村井理子著/新潮新書/840円+税)

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