「違い」を認めあう1,500キロ
『サン・ジャックへの道』は、『赤ちゃんに乾杯!』で知られるフランスのフェミニスト監督、コリーヌ・セローの久しぶりのヒット作。
サン・ジャックとはサンチアゴのフランス語読みで、スペイン北部・ガリシア地方にあるキリスト教三大聖地のひとつ、サンチアゴ・デ・コンポステラのこと。
キリストの12使徒のひとりである聖ヤコブの遺骸が安置されているという大聖堂をめざし、世界中のキリスト教徒が巡礼路をたどる。
巡礼の歴史は1000年を超えるそうで、もっと知りたい人は、『銀河』(ルイス・ブニュエル監督、1968年)を。
映画は、母親の遺産相続の条件として、フランス中部のル・ピュイからサンチアゴ・デ・コンポステラまでの1500キロを歩くことを求められた中年の3兄妹が主人公。
仕事中毒の会社経営者で、自殺未遂を繰り返すアル中妻を抱えるピエール。
頑固でしっかり者の高校教師のクララは、失業した夫(専業主夫)と2人の子どものために稼いでいる。
3番目のクロードは兄姉と違ってストレスに弱く、アルコール漬けで一文無し。
当然のように兄妹仲は悪く、弁護士の前でも激しくいがみあう。
特にクララの悪口雑言の連射は圧巻。
しぶしぶ巡礼に出かけることにした3人は、ツアーに入った。そこには、高校の卒業旅行として参加したエルザとカミーユ、カミーユを追ってきたイスラム教徒の移民少年サイッド、サイッドにだまされメッカ(!)に行けると思い込んでいるラムジィ、がん治療中で離婚したばかりのマチルド、ベテラン・ガイドで妻の浮気に悩むギイがいた。
南仏からピレネー山脈を越える美しい巡礼路をひたすら歩く9人のグチや巡礼宿でのトラブル、恋のさやあてなどがコミカルに織り込まれる。
メンバーのなかで最も純真なラムジィは失読症という障害があり、意外なことに強気のクララが心を開いていく。
そして、道中もののしりあいが続く3兄妹は、長い旅程のなかでお互いの本音を知ることになる…。
宗教、民族、家族などの「違い」をどう受け入れていくか、というテーマをユーモラスに織り込みながら、世界遺産の巡礼ルートも楽しませてくれる作品。
(コリーヌ・セロー監督/2005年/フランス/108分)
