CF030 『トランスアメリカ』 Transamerica

越えなければならないもの
個人的には「女らしさ」に抵抗してきたが、自分が女性であることに疑問を持ったことはない。これを「性同一性」と呼ぶのだそうだ。
しかし、性同一性障害(トランスセクシャル)の人は、自分の生物学的性別に違和感があり、「心と身体の性が一致しない状態」に公私ともに苦しむという。
ブリ―(フェリシティ・ハフマン)は性同一性障害の男性で、女性になる手術を目前に心はずませていた。
ところが、かつての恋人との間に息子・トビー(ケヴィン・ゼガーズ)がいて、窃盗で逮捕されたのを引き取りに来るようにとの連絡が入る。
カウンセラーに「気がかりなことを解決しなければ、手術は受けさせられない」とアドバイスされ、ブリ―は自分の正体を明かさないまま、トビーをケンタッキーの義父の家に送り届けようとする。
だが、義父に虐待されてトビーが家出していたことを知り、トビーを連れたまま、北米大陸をレンタカーで横断することになってしまう。
ブリ―は時折、男っぽい所作が出てしまうこともあるが、服装から身のこなし、言葉遣いまで、涙ぐましいまでに「女らしい」。
トビーは旅の途上、「親切なおばさん」が実は肉体的には男性であることを知り、ショックを受ける。
だが、知的で教養あるブリ―に少しずつ心を開いていく。
とはいえ、父親であることはまだ知らず、恋心(!)を抱くようになり…。
日本には性同一性障害の人は1万人超と推計され、2003年には戸籍上の性別の変更が認められるようになった。
上川あやさん(東京都世田谷区議)もそのひとりで、『変えてゆく勇気―「性同一性障害」の私から』(岩波新書)がおすすめ。
『生徒諸君』で知られるマンガ家・庄子陽子は、『G.I.D.』(講談社)で性同一性障害をテーマにした。
また、ドキュメンタリー映画『ロバート・イーズ』(2000年、ケイト・デイビス監督)では、かつて女性だったロバート・イーズが、皮肉にも子宮がんになり、パートナーに支えられて過ごす最期の日々を描いていた。
『トランスアメリカ』の”トランス”は「越えて」「横切って」という意味で、いくつもメッセージを重ねているが、観る者にも静かに”トランス”を求める作品だ。
(ダンカン・タッカー監督/2005年/アメリカ/103分)

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