CF031 『春との旅』

「見果てぬ夢」がたどりつくのは…
津田忠男(仲代達矢)は白いあごひげに長いコートをまとい、不自由な足を引きずりながらずんずん歩く。
小柄な春(徳永えり)は荷物をぶらさげ、ガニ股で必死に祖父を追いかける。
忠男はニシン漁で一攫千金を狙い、半世紀以上前に宮城県から北海道増毛町に入植した「やん衆」(ソーラン節に歌われる出稼ぎ漁師)。
北海道のニシンは江戸時代から肥料として北前船で取り引きされた。
だが、1950年代に群来(くき)は途絶えた。
それでも忠男はニシンの再来を待ち続け、他の仕事をしなかった。
家を支えた妻は先立ち、ひとり娘は海に身を投じ、残された春(19歳)とバラック小屋で暮らしていた。
春は中学校卒業後、小学校の給食員として働くが、廃校でクビになった。
東京で働けたらと思いたち、「おじいちゃんは兄弟のところに行ったらいいのに」と言ってしまう。
翌朝、忠男は乱暴に春をせかし、4人の兄姉弟を訪ねる旅に出た。
汽車を乗り継ぎ、気仙沼市に住む長男・重男(大滝秀治)の豪邸を訪ねたが、高齢夫婦は息子の希望で老人ホームに入居予定。
忠男と唯一気の合う弟・行男は、服役中で会うことがかなわない。
鳴子温泉で旅館を切り盛りする姉・茂子(淡島千景)は、「ひとりで生きなさい」ときっぱり拒む。
仙台市で不動産業を営む弟・道男(柄本明)は事業に失敗していたうえ、忠男とは犬猿の仲。
「おまえなんか、だーいっ嫌いだ!」と道男にののしられ、取っ組み合いになる。
結局、「全部、ダメだった」。
だが、お金の心配をしながら祖父と旅するなかで、春は「おじいちゃんと一緒のほうがいい」と思いなおす。
また、祖父と親族の本音むき出しの交流にうらやましさを感じ、自分の父親を想う…。
本作公開時に喜寿(77歳)を迎えたベテラン演劇人・仲代達矢は、強面で短気なうえに大食漢、だが甘ったれで憎み切れない”昭和ヒトケタ”を自在に演じる。
『老化も進化』(講談社プラスアルファ新書、2009年)では、盟友でもあった妻に先立たれ茫然とした日々を越え、映画や舞台に取り組む意欲を「グランドフィナーレの幕が上がる」と綴る。
なお、舞台となった気仙沼市、仙台市などは「東日本大震災」で大規模な被害を受けた。
失われた風景をとどめることにもなってしまった作品。
(小林政弘監督/2010年/日本/134分)

投稿日

カテゴリー:

投稿者:

タグ: