「理解」と「ともに」のあいだ
ロス・アンゼルスで高級中古車ディーラーとして飛びまわるチャーリー・バビット(トム・クルーズ)は、厳格な父親に反発して家を飛び出した26歳。
要領よく世渡りをしてきたが、父親の急逝を知り、恋人のスザンナ(ヴァレリア・ゴリノ)とアイオワ州シンシナティに向かった。
絶縁状態だった父親の葬儀に涙はなかったが、弁護士から相続できるのは中古のブランド車・ビュイックのみで、300万ドルを超える遺産は管財人に渡ると告げられ愕然とする。
納得できないチャーリーは、管財人のブルーナー医師(ジェリー・モレン)を障害者施設に訪ね、自閉症の兄・レイモンド(ダスティン・ホフマン)の存在を初めて知る。
施設に無断でレイモンドを連れ出したチャーリーは、兄の後見人になって遺産をもらおうと画策。
あきれたスザンナに去られ、兄弟ふたりでビュイックに乗って、ロス・アンゼルスを目指す。しかし、飛行機は墜落事故を起こすからイヤ、高速道路も死亡事故が多いからイヤ、雨の日は外出しない、というレイモンドの抵抗に会い、モーテルに泊まりながら一般道を行くはめに…。
自閉症の人には社会性やコミュニケーションに困難があり、知的障害や言語障害を伴わない高機能自閉症(アスペルガー症候群)や驚異的な記憶力を持つサヴァン症候群の人もいる。
兄の言動にふりまわされるチャーリーは、立ち寄った町で医師にレイモンドを診察してもらい、計算能力、記憶力の高さに驚く。
そして、レイモンドの障害や生活スタイルへの理解が深まるとともに、心から一緒に暮らしたいと思うようになる。
レイモンドの記憶力に着目してラスベガスで大儲けし、スザンナも戻ってきた。万事うまくいきそうに思えたが…。
映画公開当時、日本では自閉症はあまり知られていなかった。
レイモンド像は自閉症の多様な特徴を詰め込んではいるが、ダスティン・ホフマンの絶妙な演技とともに、広く自閉症という障害を知らせる作品となった。
日本に自閉症の人は推定36万人、高機能自閉症などを含めると約120万人といわれる。
東日本大震災では、自閉症のわが子がパニックを起こすため、避難所で迷惑をかけないよう苦慮する家族の姿が、いち早く報道された。
一緒に暮らすことができなかったチャーリーとレイモンドに重ねて、考えていきたい。
(バリー・レヴィンソン監督/1988年/アメリカ/134分)
