ポスト楢山
本作は、スプラッターが苦手な人や物語性を重視する人にはお勧めできない。
なのに、なぜ紹介するかといえば、姥捨て山に置き去りにされた老女はどうなったのか…という着想に興味を持ったから。
もちろん、浅丘ルリ子や草笛光子など日本映画史を彩るベテラン女優たちが、雪山でぼろな装束の老女役に挑んだことにも関心があった。
佐藤友哉の原作(2009年)の源泉は、「昔は老人が60になると、デンデラ野に捨てられたものだと謂う」という棄老伝説(柳田国男著『遠野物語拾遺』)。
同じテーマで有名なのは、小説『楢山節考』(深沢七郎著、1956年発表)だ。
70歳になったら「楢山まいり」(姥捨て)をする村で、みずから山に行くことを願い、孝行息子に背負われて入山した”おりん”の話。
彼女は老いてなお一人前に食べることができる健康な歯を恥じて、前歯を火打石で叩く。
21世紀の歯医者さんが気絶しそうなエピソードだが、木下恵介の同名映画(1958年)では田中絹代が、今村昌平の映画(1983年)では坂本スミ子が、自身の歯を抜いて”おりん”役を熱演した。
本作は、”おりん”と同じく「楢山まいり」を素直に受け入れた齊藤カユ(浅丘ルリ子)が息子に背負われ、山に入るところから始まる。
雪が降りしきり、カユは極楽浄土を一心に願うが、30年前に捨てられた三ツ矢メイ(草笛光子)が開拓した老女たちのコミューン「デンデラ」に救われてしまう。
メイは自分を捨てた村を、男たちを憎悪し、復讐をもくろんでいるが、カユは生き延びたことにとまどい怒る。
しかし、村に出撃する前に「デンデラ」に人喰い熊が現れ、老女たちは無残に死んでいく。
リーダーだったメイも雪崩で死に、傍観していたカユが決意したのは…。
映画の老女たちの平均年齢は80.56歳だそう。介護保険の利用者の7割は女性で、平均年齢82.5歳と現実のほうが長寿だが、今昔問わず女性のほうが長生きするようだ。
もっとも「楢山」に関しては、山に入って越冬できた者が帰村できたケース、高齢者集団で山に移住し農繁期だけ里に下りて働くといったケースを報告する本もある。
とはいえ、封切り館では終映後、出演女優たちのオールドファンとおぼしき初老男性数人の呆然とした表情が興味深かった。
(天願大介監督/2010年/日本/96分)
