CF067 『クロワッサンで朝食を』 Une Estonienne a Paris

可愛げのない人とつきあうには…
バルト三国のひとつエストニアで暮らすアンヌ(ライネ・マギ)は、暗い冬のある夜、自宅で母親を看取った。
彼女は老人ホームの職員として働いていたが、認知症になった母親のために仕事を辞めていた。
2年あまりの介護を終えてみれば、アル中の夫とは離婚しているし、ふたりの子どもは仕事に忙しく、ひとりぼっちだった。
虚脱状態の彼女に、パリでひとり暮らしのエストニア女性・フリーダ(ジャンヌ・モロー)を住み込みで世話をする仕事が舞い込んだ。
依頼者は、カフェを経営するステファン(パトリック・ピノー)。
パリの高級アバルトマンに住むフリーダは、「家政婦を頼んだ覚えはないわ!」と強気。
アンヌが作った野菜ポタージュの朝食には目もくれない。
ステファンは困惑するアンヌを「何人も同じ目にあっているが、彼女はひとりでは生きられない」と必死に説得する。
「仲介業者にはプロを派遣すると言われた」という彼の言葉に、アンヌは気を取り直す。
とはいえ、フリーダはアンヌがスーパーで買ったクロワッサンを見て、「プラスチックね。本物はパン屋で買うのよ」と田舎者扱い。
「マダムの手足となってお世話します」と言えば、「あなたの手足なんてありがた迷惑よ」とにべもない。
だが、共有する時間と空間が増えるにつれ、ふたりは互いの孤独を少しずつ知るようになる。
ステファンはかつてフリーダの愛人で、カフェにも出資してもらった。
しかし、繰り返されるフリーダのわがままぶりをもてあまし、「僕にも人生がある。君を中心にはまわらない」と人前で本音を言ってしまった。
プライドが傷つけられたフリーダは、憤然としてハンストに突入。
あせったアンヌは、フリーダと昔、交流があったというエストニア人たちを探し出して連絡を取るが…。
フリーダ役のジャンヌ・モローは、『死刑台のエレベーター』(1958年)や『突然炎のごとく』(1962年)などで不機嫌な美貌と存在感でスクリーンを圧倒した名女優。
その彼女が85歳にして、老いの可愛げのなさ、醜さ、しぶとさを堂々と演じる。
アンヌが散歩する真夜中のパリのきらめきを挿入しながら、老いても求める性愛、相手の死を待つ切なさなどが、ストレートな会話とともに小気味よく描かれる。
映画「クロワッサンで朝食を」オフィシャルサイト
(イルマル・ラーグ監督/2012年/フランス・エストニア・ベルギー/95分)

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