CF080 『マルタのことづけ』LOS INSOLITOS PECES GATO/THE AMAZING CATFISH

終末期にも出会いはある
舞台はメキシコ第2の都市・グアダラハラ。人口160万人の古都だ。
アパートにひとり暮らすクラウディア(ヒメナ・アラヤ)は、黒髪に大きな瞳が印象的な女の子。
仕事はスーパーマーケットの実演販売スタッフで、給与は歩合制。焼きソーセージはみんなが試食するが、なかなか買ってもらえない。
小さな失望を重ねるある日、虫垂炎を起こして入院。
看護師に「ご家族は?」と聞かれ、幼い時に両親と死別したクラウディアは「遠くに住んでいるので…」と口ごもる。
そんなとき、隣のベッドにやってきたマルタ(リサ・オーウェン)は、4人の子どもを持つにぎやかなシングルマザーだった。
彼女はひとりぼっちで退院したクラウディアを食事に誘う。
おずおずと彼女の家に足を踏み入れたクラウディアは、一家の大黒柱の長女・アレハンドラ、自傷行為を繰り返す二女・ウェンディ、まだ小学生の三女・マリアナ、末っ子・アルマンドを知る。
マルタにとって退院とは、家で料理を作り、家族全員で食卓を囲むこと。
天涯孤独なクラウディアには、新鮮な風景だ。
マルタは、子どもたちの父親は3人いて、3番目の夫はHIV患者で最期まで看取ったこと、その夫から感染したことを率直に語る。
開放的なマルタに惹かれ、クラウディアは彼女の家にすっかり居候。
だが、入退院を繰り返すマルタに、子どもたちは不安を隠せない。
寡黙なクラウディアはいつのまにか、母親不在時のカウンセラー的な存在になっていく。
二女の自傷を阻み、失恋した長女の嘆きに耳を傾け、病室のマルタに付き添う。
クラウディアが下のふたりを職場のパーティーに参加させた時、守衛のおじさんが小学生にテキーラを飲ませるシーンには、びっくりした。
「ときどき入院、ほぼ在宅」のマルタはある日、「私たちには休暇が必要」と小旅行を強行する。
輝く陽光の下、みんなで海水浴を楽しむが、夕食中に体調が悪化して救急車で病院へ。
だが、家族未満のクラウディアは病室に入れてもらえない…。
監督の実体験にもとづく作品とのことだが、つつましい暮らしのなかで、病気に苦しみながらも、子どもたちに愛を注ぎ、クラウディアの孤独をも溶かすマルタが美しい。
(クラウディア・サント=リュス監督/2013年/メキシコ/91分)

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