CF091 『あん』

CF091 『あん』
どら焼きが語るハンセン病差別の過去と現在
ハンセン病患者への過酷な差別政策をストレートに、かつ柔らかく描いた作品。
舞台は、満開の桜並木のほとりにある小さなどら焼き屋。
借金返済のため雇われ店長として働く千太郎(永瀬正敏)。
母親と二人暮らしで、高校進学をあきらめざるをえない常連客・ワカナ(内田伽羅)。
ある日、年齢不問のアルバイト募集に、「あたし、ダメかしら?」と徳江(樹木希林)がやってくる。
76歳と聞いて千太郎はあっさり断るが、徳江は半世紀も作ってきたのだと、自作の粒あんを持ちこむ。
味見した千太郎は「香りも味も全然違う」と驚き、前言撤回。
夜明け前から、ふたりであんを仕込む作業風景が丹念に綴られる。
徳江のあんを使ったどら焼きは大好評。
ところが、オーナー(浅田美代子)が、指の不自由な徳江のことを「知り合いからハンセン病じゃないかと言われた」と飛んできた。
千太郎は「徳江さんのおかげで、繁盛している」と抵抗するが、「一生監禁ものの病気だったんだから、辞めてもらわないと」と聞いてもらえない。
オーナーに逆らうように、千太郎は徳江と仕事に励むが、ある日を境に客足が途絶えた。
事態を察した徳江は、ひそやかに店を去る。
「世間も怖いが、俺は守れなかった」と落ち込む千太郎に、ワカナは徳江が暮らす療養所に行こうと誘う…。
ハンセン病はらい菌による慢性感染症で、化学療法で治ることが判明したが、かつては伝染病として怖れられた。
1953年、”公共の福祉”のため成立した「らい予防法」は患者を療養所に生涯隔離し、子どもを持つことも許さなかった。
1996年、ようやく同法は廃止され、国会と行政府が謝罪し、今年4月25日、立法府(最高裁)も謝罪した。
本作は、患者の苦難の歴史をさりげなく語る。
ロケ地となった国立療養所多磨全生園(東京都)の緑濃い景色のなか、徳江がたどりついた「何かになれなくても、私たちには生きる意味がある」という境地が、千太郎とワカナを励ます理由を掘り下げよう。
(河瀬直美監督/2015年/日本/113分)

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