CF110 『ぼくと魔法の言葉たち』
Life, Animated
大人になる不安と希望
アメリカ東海岸のケープコッドで暮らすオーウェン・サスカインドは、広汎性発達障害あるいは自閉症と診断されて育った23歳の青年。
本作は、学生生活を終えて、ひとり暮らしをはじめたオーウェンの1年間を追うドキュメンタリーだ。
彼は、3歳の時に言葉を失った。
1990年代当時、小児科医はお手上げ、専門機関はモルモット扱いをした。
だが、両親と2歳上の兄は、沈黙するオーウェンとともに、彼が大好きなディズニーのアニメ鑑賞をしながら、可能性を探し続けた。
4年がたち、ある日、両親はオーウェンが『リトル・マーメイド』のセリフをしゃべるのを聞く。
父親のロンは、オーウェンのお気に入りのディズニーキャラクターのぬいぐるみを使い、話しかけてみた。
なんと、息子はディズニー作品の全てのセリフを暗記し、「映画を通じて、現実の世界を理解しようとしている!」。
それ以来、家族はディズニーの会話でオーウェンを取り戻し、成長を見守ってきた。
だが、「ディズニーの明確な台本」が必要では、人との関わりを築いていくのは困難だ。
人と語りあうという概念のトレーニング、晴れの卒業式、『ピーター・パン』のように大人になる不安と希望に満ちた引っ越しの日…。
ガールフレンドに振られ、「なぜ、人生はつらい痛みばかりなの」と問うオーウェンに、母親は「現実に向きあい痛みをこらえれば、やがていい方に進む」とアドバイスする。
父親は「失敗が必要で、挫折を知らなければならない」と語る。
兄は「両親は年を取る。20年後はどうなっているだろう」と不安も吐露する。
父親は経済紙『ウォール・ストリート・ジャーナル』のピューリッツァー賞記者で、本作は著書『ディズニー・セラピー 自閉症のわが子が教えてくれたこと』をもとに制作された。
愛情深く理性的、経済力も確かな家族に支えられているからこその環境だが、オーウェン本人がディズニーのキャラクターから真理を見出していく姿に感動させられる。
(ロジャー・ロス・ウィリアムズ監督/2016年/アメリカ/91分)
