CF122 『モリのいる場所』

CF122 『モリのいる場所』
天然老人の小宇宙
熊谷守一(1880~1977年)は、70代になって単純な線と明るい色彩の「モリカズ様式」と呼ばれる独自のスタイルを完成させた画家。
自宅の猫や庭の草木、鳥などをテーマにした作品には根強い人気がある。
映画は70代で軽い脳卒中を起こして以来、ほとんど自宅から出ることがなく、「画壇の仙人」、「超俗の人」と評された熊谷の晩年、90代の夏の日を描く。
補聴器をつけた画家はモリ(山崎努)と呼ばれ、18歳年下の妻・秀子(樹木希林)、姪でお手伝いをしている美恵(池谷のぶえ)と暮らしている。
歯がないので、食事の時は、ハサミで食材を小さく切り、あるいはキャンバス張り用のペンチで潰して食べる。
食後は、50坪ほどのうっそうたる庭を二本杖で散策する。
アリやカマキリ、アゲハ蝶に注目し、拾った石をしみじみ眺めて飽きることがない。
緑したたる草木や小動物、昆虫たちの映像が美しい。
モリの家には、来客が引きも切らない。
画商や友人が勝手に出入りするし、長野からやってきた旅館の主人は、看板を書いてくれと頼み込む。
工事現場の監督は息子の絵を見てくれと言う。
大方の接客は妻まかせだが、騒々しくても気にする様子はない。
昼食後は庭にゴザを敷いて昼寝をし、夕食後は妻と囲碁を楽しむ。
たいがいは画家が負け、その後、「学校」と呼ぶアトリエに行く。
制作をすることもあるし、時計の修理をすることもある…。
ラストで「もっと生きたい」と語るモリに、「へえ。そうなんですか」と応える妻の微妙なニュアンスが面白い。
争いごとが嫌いで、ユーモラスともいえるライフスタイルを堅持した画家に対する監督の尊敬とファンタジーを感じる。
なお、画家が50年近く暮らした自宅は現在、東京都豊島区立熊谷守一美術館となっている。
91歳の時の自伝的インタビュー集『へたも絵のうち』(平凡社ライブラリー)も魅力的だ。
(沖田修一監督/2018年/日本/99分)

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