CF142 『白い犬とワルツを』
喪失感と折り合いをつける道筋
タイトルは聞いたことがあったが、いささか古い本作を観た後、ミリオンセラーになったという原作(新潮文庫)を読んでびっくりした。
映画の舞台は、緑豊かな日本の田園地帯(なので、田んぼのあぜ道を疾走する白い犬がよく映える)。
ところが、原作はなんと、北米のウィスコンシン州。
まあ、どこの国であれ、長年連れ添った最愛の妻に先立たれた夫の悲哀は同じかもしれない。
喪失感に茫然としていると、中年の娘たちは「やっぱり認知症かしら?」と騒ぎはじめる。
どこからともなく現れた白い犬に、最初は邪険にしていたものの、余計な心配をする人間より話しやすい。勝手に語りかけるうちに、妻の化身のようにも思え、彼女の最期の願いを実行する意欲が芽生える。だが、足が不自由になった身で、娘たちは車の運転をやめろとうるさい。しかし、妻の遺言をかなえるには車が必要だ…。
映画では主人公の仲代達矢(1932年生まれ)が、頑固な職人気質の老人を好演。
彼はボクサーを経て俳優をめざし、1957年、『七人の侍』(黒澤明・監督)の端役で映画デビュー。
演劇やテレビも含めて出演作は膨大だが、妻とともに無名塾を主宰し、若手の育成も手がけてきた。
映画出演で印象に残るのは、小林政広・監督の『春との旅』(2010年)という、身寄りを求めて東北をさまよう老人を演じた作品を紹介がある。同監督の『日本の悲劇』(2012年)でも、生きづらさを抱えた息子と同居する末期がんの父親役を演じ、シビアなテーマにも応じる姿勢が印象的だった。
主演者の話になってしまったが、人生経験を重ねた俳優の演技だけでなく、少し臆病そうな白い犬と踊るシーンがちょっとコミカルだ。
(月野木隆監督/2002年/日本/98分)
