CF145 『ファーザー』
The Father
認知症の人が見る景色
本作は、フランスで大ヒットした室内劇を、作者みずから映画化した。
映像は最初から最後まで、玄関の位置も部屋の間取りも同じだ。
しかし、ゆとりある年金生活者らしいアンソニー(アンソニー・ホプキンス)の趣味の良さを感じるインテリアは微妙に変化し、最後は高齢者施設の殺風景な部屋になってしまう。
娘のアン(オリヴィア・コールマン)をはじめ、彼女の夫か恋人かわからない男、嫌いなホームヘルパーも、名前は同じでも違う人物が登場する。
果たして娘に夫がいるのか、可愛がっていた下の娘はどこに行ったのか。
心配されるとむかつき、体裁をとりつくろい、だが、鏡に映る自分が誰なのか、わからない朝もある…。
そう、これは認知症の人が見る日常の風景を描いている。
サスペンス映画のように緊迫する展開のなか、観る者はアンソニーの視点で、彼の違和感に感情移入し、認知症をバーチャル体験させられてしまう。
主演のアンソニー・ホプキンスは、『羊たちの沈黙』(1991年)の不気味な演技で知られるが、デビュー作『冬のライオン』(1968年)や『日の名残り』(1993年)、最近では怒れる老人を演じたテレビ映画『リア王』(2018年)など、シェイクスピア俳優からスタートしたキャリアを感じさせる名演も数多い。
撮影時に82歳だったというホプキンスが、ほぼ全編にセリフがあるハードな役柄について、「年齢的に演じるのは楽だった」とコメントしているのにも恐れ入った作品。
(フロリアン・ゼレール監督/2020年/イギリス・フランス/97分)
