CF159 『スープとイデオロギー』
Soup and Ideology
過酷な歴史を癒すのは、おいしいスープ
在日コリアンについては、『パッチギ!』(井筒和幸監督)で朝鮮高校を知り、『血と骨』(崔洋一監督)で済州島から大阪にやってきた男のエネルギッシュで暴力的な一代記に驚いた程度の浅い知識しかない。
日本における民族差別や、朝鮮半島の南北問題も漠然と知るレベルなので、本作で監督のオモニ(母)が遭遇した「済州四・三事件」はまったく知らなかった。
1948年、日本の敗北により、朝鮮半島はアメリカとソ連(現・ロシア)が分割占領し、5年後には独立するはずだった。
だが、冷戦で米ソ対立が激化し、南だけの単独選挙が行われることになった。
済州島では南北分断への抗議行動が起こったが、戒厳令下、「敵性地域」に暮らす人たちへの無差別殺戮が行われた。
韓国政府が公式に事件を認めたのは2000年のことで、犠牲者は3万人ともいわれる。
オモニは大阪で生まれ育ったが、第二次世界大戦末期の大阪大空襲の後、親族が暮らす済州島に疎開し、18歳で「済州四・三事件」に巻き込まれた。
監督が事件を知ったのは2015年。
オモニが手術を受けた病院のベッドで、「たくさん殺されてん。学校の運動場に引っ張っていかれて、みんなを並べて、機関銃で…」と語りだしたときだった。
長く沈黙を強いられた悲劇だが、ほっとさせられるのは、オモニのご馳走だ。
アボジ(父)が亡くなり、ひとり暮らしとなった彼女は、ある日、鶏を丸ごと買い込む。
ニンニクの皮をむいて、ぎゅうぎゅう詰め込み、長時間煮込む。
「参鶏湯(サムゲタン)」だ。
そこに現れたのは、スーツを着込んだカオルさん。
なんと、監督との結婚の挨拶にやってきたのだ。
彼は美味なスープに緊張を解く。
翌年、済州島から、事件体験者にインタビューしている調査員が訪ねてきた。
オモニは殺された婚約者がいたことや、密航で日本に脱出した経緯を語る。
しかし、この日をきっかけに、オモニの認知症は劇的に進行し、亡くなった家族を探しはじめる。
2018年春、監督はカオルさんと一緒にオモニを済州島に連れていく。
事件の70周年追悼式に参加するためだ。
でも、オモニはほとんど思い出せない。
しかし、監督は「あまりにむごい」と泣きながらも、帰国事業で3人の兄を北朝鮮に送り出し、せっせと働いては送金していたオモニの気持ちを理解しはじめた。
(ヤン・ヨンヒ監督/2021年/韓国・日本/118分)
